浮き世のすべてが恋しくてたまらなかった

先生に電話した日をいつもカレンダーに記していた。最後に電話して2週間経ったからそろそろいいかもしれない。テレビに椎名林檎が出るからそれを理由に、ただ単に、思いついたから電話したって感じで。「見れないから録画しておいて」って言おう。また今度電話する理由ができる。喋りすぎないようにしよう。はしゃいだりしないようにしよう。大丈夫。絶対大丈夫。

 

何度電話してもそんなふうに緊張した。電話ごときに。
毎回3時間くらい喋るくせに。

「今日の夜、電話するね」ってLINEを送った日は怖気付いて友達に電話する。逃げる理由を作る。
「今日の夜空いてたらどっか遊びにいこうよ。うん。ガストでいい」
そんでガストで友達と騒ぎながら先生にLINEする。
「今友達とガストいるのー」
「電話はどうする?」
「今度暇な時に電話して?」
「わかった」
わたしはホッとしながらガッカリする。そして今度は「どうかどうか電話がかかってきませんように」と心の中、本気で祈る。でもかかってくる。うわ嫌だどうしよう!とか思いながらホッとする。あぁよかった。嬉しい。わたしのことを覚えていてくれたのね。先生もひとりでいるときにわたしのことを少しでも考えてくれたり思い出してくれたりするんだろうか。もしそうなら神様、それは奇跡よ。

 

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16歳だった。出会った日、その日から、ずっとギリギリで生きてた。1ミリでも後ろに下がったら裏側へ落ちてしまうような、そんなギリギリの淵を歩いてた。 たった一言が嬉しくてもうそれだけで死んでしまいそうになっていた。思い出しただけでわたしは一生しあわせでいられると思っていたりした。電話を切ったあとに窓から携帯放り投げて走りだしたいくらい嬉しかったりした。浮き世のすべてが恋しくてたまらなかった。そして、たった一言に傷ついてそれだけで死んでしまいそうになっていた。一喜一憂しすぎて本当に死んでしまうと思った。置いて行かれそうでこわかった。いつかホントのこと言われるんじゃないかと思ってこわかった。だんだん訳が分からなくなってきて、先生の心も居場所も髪も笑顔もどうでもよくなって、もういっそ電話もLINEもなくなって、そしたらわたしは一生しあわせなままで、思い出と妄想それだけで生きていけるだろうと思ったの。半分狂気。

ホントは椎名林檎CUNEもどうでもよかった。シムズもポールスミスもどうでもよかった。映画だって先生巻き込まないで撮ればいい話だったんだ。でも、そんなのも、もう過ぎた話。

いろんなことを話しすぎて、どうでもいいことを毎回わたしは何時間も本気で話しすぎて、何をしてても何の曲を聴いても何の本を読んでも先生を思い出すよ。