ルーシーはダイヤモンドと空の上

平日だけどお酒を飲んできた。
音楽ってすごくって、当時の記憶だけじゃなく感性まで鮮やかに蘇ってしまって驚くことがある。いつもいくBarで健人のことを思い出していた。先日脳腫瘍で亡くなった友達。POLICEの「Every Breath You Take」が流れていた。

 

昔、結婚式の余興でそれを弾き語りしたことがある。その頃、わたしは健人に言った。
「これストーカーみたいじゃんね」
「ストーカーの曲だもの」
健人は即答した。
それからこの曲を聴くたびに「あぁストーカーの曲だ」と思い出す。

そしてどうでもいいんだけど、なぜか友達をみんな外国の名前で呼ぶブームが昔わたしの中であって、その時に健人をLucyと呼んでいた。
「in the sky with Diamondかよ」
健人は言った。

なのでわたしは「Every Breath You Take」と「Lucy in the sky with Diamond」を聴くと必ず健人を思い出す。
あの時の未熟な感性と共に。

 

ふと思い出すのは何年も前の5月で、それはまだわたしは若くて、バカみたいなツインテールなどしてなかった頃。


初夏の日の午後の遊園地。いきなりの大雨。センチメンタル。バケツをひっくり返したようなどしゃ降り。びしょ濡れになったわたしたちは売店の軒下に走り込んだ。わざとぶつかりあって騒いで走ってたら係の人に怒られたっけ。色褪せた看板や植木の葉が雨に濡れて急に鮮やかになる。懐かしいような土の匂いがした。
「あーあ傘誰ももってないよね」
仕方がないからわたしたちはそこでしばらく雨宿りをすることにした。
「ねぇ、来年の夏はみんなでもっとどっか行かない?」
誰かが言った。
「沖縄がいい」
「沖縄いいね!行こうよ、またみんなで一緒に行こうよ!」
「そうだね」
わたしは言った。
「うん、一緒に行こう」

守れない約束をしてしまったと思った。来年。来年のことすら想像できない。きっと、そこにいる全員が同じことを思っただろう。急にみんな口を閉じてしまった。雨の音だけがざあざあと聞こえた。


あの頃の一年は大きい。わたしたちまた来年も会えるのかしら。いつかどこかで大人になって「知らない人」になったりもするのかな、なんて思ったりもした。

 

気がついたら雨はほとんどあがっていた。雲の隙間から太陽が見える。

「あ、ほら晴れてる」
「虹!!!」
健人が叫んだ。雨はあがっていた。雲の中の太陽が眩しくて、観覧車の向こうに虹が見えた。神様はいると思った。ってくらいのシーン。
わたしは真っ先に飛び出して笑った。


「行こうよ!」

 

それから健人と紡いだ何年もの記憶をわたしは忘れない。
多分、ずっと、忘れない。

曲を聴くたびにに思い出す。思い出したい。

 

わたしたちのあの平凡は本当はとても壊れやすくて、なくさないことは奇跡だった。

 

バーボンはいつもと変わらない味がした。

 

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写真は健人が撮ったわたしの貴重な写真。

 

ルーシーはダイヤモンドと空の上。